三毛別(三渓)ヒグマ事件…第一の現場、太田宅・その4へ戻る

夕方、力石から蓮見幹雄少年の両親他3名が到着し、太田家で阿部マユ・蓮見幹雄両名の通夜が執り行われる事になりました。 とは言え、参列したのは喪主を含め僅か6名だけでした。 大半の人達は恐怖から太田家には来ませんでした。
ところで、羆は「獲物があるうちは立ち去らない」という習性があります。 この為、通夜に来る男衆は銃や凶器となりそうなものを持ち寄り、十分に警戒をしました。

20時頃、夜遅くまで熊追いをしてからの帰り道だったマタギ谷喜八氏が太田家に立ち寄りました。 口の悪さでは村一番の谷氏でしたが、気の良さから村人からは愛される存在だったそうです。
この時もその口の悪さはいかんなく発揮されました。
「どうせ喰われるなら、もう2,3人も喰われりゃ良かった。一緒に葬ってやるさ。今夜は見てろ、21時頃には必ず羆が来るぞ」

通夜も終わり一段落したものの、太田氏は変わり果てた妻子に男泣き、幹雄少年の両親も放心状態でした。
やがて母親の蓮見チセは気を取り直して、力昼村から持参した3升の酒を参列者に注いでいた20時30分頃、遺体を祀った寝間の板壁が凄まじい地響きと共にぶち破られ、黒い影が立ちはだかりました。 谷喜八氏の言った事が現実となったのです。 羆の習性の通り、隠しておいた獲物を奪われたと怒り、復讐と略奪に来たのです。

通夜の晩の襲撃

当時の石油ランプ(三毛別ヒグマ事件復元地)

忽ちランプは消え、棺桶はひっくり返り、遺体は床に転げだす始末。 暗闇の中参列者は2名の亡霊が出たと思いましたが、斉藤信之助氏が正体を見抜き「羆だ、逃げるな！」と絶叫しました。 (羆は逃げるものを追う習性があります)
そう言われても真暗闇に黒褐色の羆の姿など見えず、参列者達は悲鳴を上げ右往左往するばかりでしたが、そんな中脱出に成功した中川長一氏が大声で叫びつつ石油缶を打ち鳴らして急を告げました。 これに合わせて屋内の人達も一斉に叫び、駆けつけた男衆が発砲したところ羆は立ち去りました。
この際、屋外へ逃れた2,3名が数十m先に羆の姿を目撃したそうです。

救援隊の現着が早かったのは、たまたま300mくらい下流の中川孫一宅で待機しつつ夕食中で、騒ぎを聞きつけて一斉に太田家を包囲したそうです。 羆来襲から僅か10分ほどでした。
しかし、羆は山へ帰ったのではありませんでした。