三毛別(三渓)ヒグマ事件…第三の現場、明景宅・その3
大変失礼しました。話を元へ戻しましょう。
明景宅の襲撃(再掲)
ヤヨ親子への凄まじい攻撃を目の当たりにしたオドは逃げるしかないと戸口から飛び出そうとしたのですが、巨大羆は親子を放り出して戸口を塞いでしまいます。
この隙に深手を負ったヤヨは勇次郎の手を引いて脱出しました。
逃げ場を失ったオドは物陰に隠れたのですが、生憎上半身しか隠れません。
この動きを羆が見逃すわけはなく、腰に噛みつきます。
この為オドは臀部から右大腿部まで肉をえぐり取られ、右手も爪で裂かれました。
還暦目前、当時としては御長寿の59歳とはいえ流石に悲鳴を上げると羆は手を放し、再び居間へ向かいます。
居間に残っていた明景金蔵・斉藤春義は頭部から胸部に掛けて一撃を喰らった裂傷と咬傷で死亡、斉藤巌も同様の致命傷を負います。
兄弟の悲鳴と断末魔の呻き声に耐えかねた斉藤タケが隠れていた野菜置場の筵から様子を覗き見したのですが、羆の目を逃れる事が出来る訳もなく爪を立てて部屋の真ん中へ引きずり出されます。
タケは俵の陰に隠れようとしたものの、壁と俵の隙間がわずか20cm弱しか無くて臨月の身体を隠しようもなく、仕方なしに野菜置場とは名ばかりの土間の片隅に筵を4枚ほどぶら下げただけの場所に隠れていたそうです。
この時タケは出産まであと何日かという身で、襲い掛かる羆に
「腹破らんでくれ！」
「のど喰って殺して！」
「腹破らんでくれ！」
「のど喰って殺して！」
と叫びつつ意識を失いました。
その間に羆は腹を裂き、動いている胎児を床に引き出し、タケを上半身から喰いました。
こうしてタケを貪り食った羆は撲殺した金蔵の頭から胸にかけてと、更にまだ息のあった巌の左大腿部から臀部と胸部、肩を喰い荒らしました。
タケが隠れようとしていた俵の陰には明景力蔵が隠れていました。
俵の向こうからは人骨を噛み砕く音、断末魔の呻きが聞こえ、次こそは自分の番と諦めの心境でした。
また、疲れから寝ていた明景ヒサノは羆の侵入時に目を覚ましたものの、あまりの出来事に放心状態で身動きも出来なくなっていました。
動かなかったことや、この羆の嗜好的に若すぎたため無傷で生還します。
有名な吉村昭著『羆嵐』がラジオ・テレビドラマ化された1980年(昭和55年)当時、両名ともご健在で精神的な後遺症も無く(とされていますが実際にはフラッシュバックなど有ったのかもしれません)暮らしていらっしゃるという資料が手元にあります。